Goyururi Letter #10: マツタケ
食と生の民族誌 ごゆるりを人類学的に考える
マツタケ
キャンパスに広がる芝生や自宅近くの公園で奇妙なキノコを目にするたびに、人類学者アナ・チンの著作『マツタケ』を思い出す。何とも不思議なタイトルだが、「不確定な時代を生きる術」という副題がついた立派な社会科学の書籍だ。(ちなみに原著のタイトルは「The Mushroom at the End of the World」という尖りまくったの最高の名付けだ)
アメリカ・中国・日本という複数の地域での調査を通して彼女が描いたのは、文字通り「マツタケ」をめぐる人間と自然の営みである。日本では高級食材として嗜まれるマツタケは、ホストツリーとの共生関係の中ではじめて育つことができるため、人工栽培ができない。その命運を他の自然に委ねざるを得ないという点において、「不確定な存在」と彼女は表現する。そして同時に登場するのは、そのマツタケを採取することで不安定な生計を保つ、アメリカ・オレゴン州の戦争難民たちの姿だ。人間と自然の不確定性が複雑に絡まり合うカオスを通して、「多種」という視点の重要性を再認識することができる。
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今日の人類学において、「マルチスピーシーズ」というテーマは避けて通りがたい。それは文字通り人間もそれ以外も含めた「多種」を意味し、人間同士の関係性や慣習、文化に長らく着目してきた人類学にとっての視点の転回とも言える。人間と自然という二項対立を乗り越えて、環境や宗教、文化といった問題に対して新たな分析枠組みを提供する。エドゥアルド・コーンは『森は考える』において、アマゾン河流域に住むルア人にとって「森は考え、犬は夢を見る」という認識に迫った。レーン・ウィラースレフは『ソウル・ハンターズ』で、シベリアの先住民族ユカギールのハンターたちが狩猟において行う儀式に着目する。ハンターたちは、エルク(鹿の一種)を狩猟する過程で、徹底的に自らがエルクになりきるための精神的な準備をする。「エルクに半ば同化しながらも、完全に同化しない絶妙なバランス」を通して、これまでの人間と自然の二項対立的な考え方にゆらぎを与える。
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私たちは、あたかも人間と自然を綺麗に切り分けて、様々な問題を整理してきたように思うかもしれない。しかし実際に起こっているのは、いずれか一方に単純化することのできない、多種のもつれあいのような現象だ。そういった点において、食という場は多種の混ざり合うカオスと言えるのではないだろうか。個々の食材には産地があり、生育に関わった人間が存在し、その食卓に届くまでには整備されたサプライチェーンがある。作り手には生計を立てる必要性があり、サプライチェーンには効率化という新自由主義の圧力がかかる。食材そのものは豊かな土壌と日光、菌など様々な環境的要因と共生することで大きく育つ。何気なく口にする料理も、少し立ち止まってスケールを拡大・縮小してみると、圧倒されるほどの多種世界が広がっていることに気が付く。さて、次にキッチンに立ったとき、食事をするとき、私たちは何を思うのだろうか。たまにはゆっくり深呼吸をしながら、多様な料理が盛り付けられたひとさらの向こう側に広がる世界に、思いを馳せてみるのも良いかもしれない。
-Masato Ushimaru @atthegorge
今週のひとさら
家族みんなで「おいしいねえ」って言えるひとさら
この日最後に来てくれたある4人家族。先日5分だけ出演したJ-WAVEの番組を聴いてくれていたお父さんが予約をしてくれた。
事前アンケートはお父さん・お母さん・10代の娘さん・息子さんがそれぞれ回答してくれていた。娘さんがアンケートで「この日は両親の結婚記念日で、父の誕生日でもあるので、家族で楽しく過ごせたらうれしい♡」と書いてくれていたので、この日はダブル記念日をお祝いするのにふさわしいひとさらにしようと心に決めた。お誕生日だというお父さんはカレーが好きで、スパイスを使ったお料理が食べたいとリクエストをくれたので、私の一番得意な茄子のスパイスカリー、そしてスパイスで和えた焼き柿、シナモンが効いた栗とかぼちゃのサラダ(栗の皮むきも特別な日なので頑張った!笑)をつくった。お母さんからは「これから子どもたちが社会に出たら、なかなかみんなで揃って外食しにくくなると思うので、みんなで「おいしいねえ」と言えるような時間を過ごせたらうれしい」とアンケートに書いてくれていた。食べたいものには「おなかにやさしいもの」とあったので、みんなでたのしめるようにカレーは辛みを抑えたものとスパイシーなものをつくった。さらに、息子さんは、好きなものはお米!娘さんは、炊き込みご飯がお好きで、具沢山のスープが飲みたいと書いてあったので、みんなが「おいしいねえ」と味わっている様子がイメージできる、ほくほく具沢山のほうとう風味噌汁と、きのこモリモリの炊き込みご飯をつくった。ひとさらカードには、お父さんのカードの裏に「Happy Birthday! and...」お母さんのカードの裏に「Happy Wedding Anniversary!」のメッセージをこっそり添えておいた。
ひとさらをお出しして、こんな理由でみなさんの要素がひとさらに入っていますと説明したとき、ご家族が心から喜んでくれているのがその笑顔からぱあぁっ!と伝わってきた。そして、食べている途中でカードの裏のメッセージに気づいてくれたお母さんは少し涙目になっているようだった。何度も「ありがとうございます」と言ってもらえて、私も釣られて、泣きそうになってしまった。
「J-WAVEでりささんのお話を聞いて、本当にそうだなって思って妻に話して予約したんです」とお父さんは話してくれた。毎日忙しく追われるように働いていると、自分自身に余裕がなくてベクトルがどんどん内向きになって、自分以外の誰かをどうやってハッピーにしようか?と思いを馳せることが難しくなる。でもちょっと心に余裕ができて、どうやってあの人を喜ばせようって考えられたとき、とってもハッピーな気持ちになる。だからこそ、ごゆるりではまず、みんなが自分自身を大切に、自分自身にやさしくなれる時間を持ってほしいと思っている。
ひとさらと食後のデザートを食べ終わってお帰りになる前に、家族揃ってわたしたちのために食器をカウンターまで笑顔で運んできてくれた。ただただありがたいなと想うのと同時に、ごゆるりで作っていきたい世界をこの家族が体現してくれているように思えた。
ごゆるりをやっていて本当に良かったなあと思う。それは、こうやって一緒に「ごゆるり」してくれるゲストたちがいるからこそだなあと、改めておもった日曜日。
-Risa Masaki @risainsea
ひとことレシピ
茄子とひき肉のスパイスカリー
カレーを作るのに必要だったある調味料を買い忘れて味噌で代用した結果、めちゃくちゃ美味しいカレーができた
【材料】
茄子:小4~5本
玉ねぎ:1個
にんにく:1かけ
生姜:1かけ
オリーブオイル:大1~2
◎クミン:大1/2
◎チリ:小1/2
◎ターメリック:小1/4
◎塩:小1/2
◎カットトマトor熟れたトマト:50g
★豚ひき肉:200g
★水:200ml
★味噌:小1
★すりごま:大1
【作り方】
①茄子は乱切りにして揚げ焼きにしておく
②玉ねぎは薄切り、生姜とにんにくはすりおろす。
フライパンに油を中火で熱し、玉ねぎを炒める。
飴色に近づいてきたら、すりおろしたにんにく生姜を入れて水分を飛ばすように馴染ませる。
水分が飛んだら◎をいれて全体を馴染ませる。
③よく炒められたら、★と最初に揚げ焼きにした茄子を入れて茄子にカレーが染み込むまで10分ほど煮込む。
【アドバイス】
・茄子を揚げ焼きにするときも、玉ねぎを最初に炒めるときも、油をけちりすぎないこと。
・茄子もたまねぎも炒め始めたら、すぐに動かさずじっとがまんすること。しばらくしてから動かすときれいに炒められる。
-Risa Masaki @risainsea