Goyururi Letter #01: 他者とともに
食と生の民族誌ごゆるりを人類学的に考える
他者とともに
「わたし」とは何だろう。「他者」とは誰なのか。その区別とは一体どこにあるのだろうか。
近そうで遠い、哲学っぽさの溢れるこの線引きの問題。それに対する科学者・三宅美博さんの応答がとても印象に残っている。
彼の言葉によると、近代的なものは、あらゆるものをスパッと切ってしまう。境界の「こちら側」と「あちら側」。システム論の言葉では、境界のこちらがシステムであり、その向こうは「ノイズ」であると。価値の区別をなすその線について、彼の提起した方向性がとても興味深い。「もう一度、ある意味で自己と他者が相互浸透できるような、厚みのあるボーダー(border)を作っていく必要があるのではないか」。
・・・
東工大・未来の人類研究センター主催の「利他学会議」で議論されたこの論点は、掴みどころのない自分という存在、そのまわりに居る「他」なる様々な存在との関わり合いについて、豊かなヒントを与えてくれるように思う。
「厚みのあるボーダー」とは何だろう。例えば、仮に真っ白な紙の上に鉛筆で丸い枠を描き、その内側が「自分」、その外側が「他者」だとする。その線が、鉛筆の芯の幅を超えた太い線となると、そこに立ち現れる厚みは、果たして自分なのだろうか。それとも自分とは異なる他者なのだろうか。三宅さんの言葉を借りると、そこは自己と他者が「相互浸透できる」ような、なんだか近所の公園のような公共圏のように思えてくる。
・・・
そう考えるうちに、もうひとつ不思議なことが頭に浮かんでくる。紙に描かれた鉛筆の線、自己のボーダーを示すその区切りは、私たちの身体に沿って引かれるものなのだろうか。
普段の暮らしを振り返ってみると、自分の身体なのに理解できないことで溢れている。早起きしたい自分と、もっと寝ていたい身体。会社に行かなければならない自分と、玄関に向かわない身体。まるでその身体の中に、自分とは異なる他者が住んでいるような感覚。こうした経験を見つめると、自他を分つボーダーは、必ずしも物理的な区別とは一致しないのかもしれない。そして、身体の中に存在しているかもしれない、この内なる他者を「内的他」と名付けた時に、ごゆるりが向き合っている世界観とも重なる部分が見えてくる。
・・・
「他者」という問題については、哲学だけでなく人類学も長らく議論を重ねてきた。それは「未開」と呼ばれた人々の文化や社会に対する関心から始まり、度重なる自己批判を経て人間以外の生命体へと向かった。ティム・インゴルドは「人類学とは、世界に入っていき、人々とともにする哲学」と綴っているが、私たちは「他者」としての人々、そして人以外の存在なしには生きていくことができない。
8月からデンマークにわたり、現地の大学院で人類学の研究に携わる身として、ごゆるりという小さな食堂で、そして食と生という視点から、この「内的他」をのぞいてみたい。食べるということ、生きるという当たり前の実践が、「内的他」なるものと関わり合う上でどのような意味を持つのだろうか。「食と生の民族誌」として、少しずつ言葉にしていきたい。
( Masato Ushimaru @atthegorge )
今週のひとさら
エネルギーみなぎるフルーティなひとさら
ごゆるりでは、ゲスト一人ひとりに事前にアンケートでリクエストを聞いていて、その内容は人によって様々。「ほっこりするものが食べたい」「旬のものが食べたい」といった定番のリクエストもあれば、「和菓子、シナモン、ルバーブ、タコライス、茄子が好き!今回食べたいものはラザニア!」みたいな人もいたり。「大人のお子様プレートが食べたい」というお題をくれる人がいたり。考える側である私は、「どうやってこの人を喜ばせよう〜」と、楽しくて、いつもにやけてしまう。
・・・
今週は「卵焼きの天ぷら みたいな、自分では思い付かないようなものが食べてみたい!」というリクエストや、「普段よりやる気が出ないから、エネルギーがみなぎってくるようなひとさらが食べたい」というリクエストを複数受けたので、今回は元気あふれる旬のフルーツを要素としてたくさん取り入れてみた。ひとさらが目の前に出てきた瞬間、そしてひとつひとつ味わうときに、いい意味で「なんだこれは!」とわくわくしてほしくて。
・・・
宝石みたいにキラキラしているデラウェア(小粒のブドウ)と同じ大きさの枝豆、とうもろこしの実を合わせたマリネ。ジューシーな甘さとお豆の塩味が最高に合う。かぼちゃのサラダは、定番のチーズと合わせたものではなく、夏らしくさっぱりレモン果汁とヨーグルトで合わせてみたり。メキシカンでは定番のワカモレ(唐辛子と柑橘を効かせたアボカドのディップ)には、キウイを入れてフルーティな甘さをプラスしてみたり。人気の味玉はクミン・ターメリック・チリ・コリアンダーと一緒に漬けて、スパイシーな香りにしてみたり。
・・・
見て、味わって、ワクワク、元気が湧いてくればいいなと思って作った、今週の「一生に一度のひとさら」。次回は、どんなひとさらになるだろう。
( Risa Masaki @risainsea )
ひとことレシピ
デラウェアと枝豆のマリネ
枝豆の塩味とデラウェアのジューシーな甘さが絶妙なマッチ
【材料】
・枝豆:1袋
・塩:大さじ1(枝豆に揉み込む用)
・デラウェア:1パック
◎オリーブオイル:大さじ1〜
◎岩塩やハーブソルトなど、お好みのお塩:パラパラ
【作り方】
①(下準備)
・枝豆は塩大さじ1杯ほどを全体によく揉み込む。鍋に水1L程沸かして、沸騰したら塩がついたまま枝豆を投入し4〜5分茹でる。茹だったら、ザルにあげてそのまま置いておいて冷ます。
・デラウェアは実をとって洗う。
②ボウルに枝豆・デラウェア・◎の調味料を入れて全体をサクッと混ぜて完成。
【アドバイス】
・枝豆は先端部分をハサミなどで切っておくと、味が入りやすくなる
・お好みでひよこ豆やとうもろこしなど合わせても美味しい◎
・クリームチーズやお好みのプロセスチーズなどをちぎって一緒に和えても◎◎
( Risa Masaki @risainsea )